私が夏季、冬季問わず、または日本人、外国人問わず、もっとも印象に残っているオリンピック選手は、モーグルの上村愛子さんです。(既に引退しているため呼称は”さん”で統一します)
日本には多くのオリンピック金メダリストがいますし、その中には国民栄誉賞を受賞した人もいます。
しかし私は、そのような選手たちよりも、メダルを獲得できなかった上村愛子さんこそが、オリンピックを象徴するような選手だと思っています。
※ちなみに私は、特別モーグルやスキーに興味があるというわけではない
上村愛子さんが初めて注目を浴びたのは、自国開催となった長野オリンピック直前にテレビCMに出演したことからでした。
このCMで、見た目の良さや現役女子高生ということが話題となり、上村愛子さんは一気に長野オリンピックの注目選手の1人となったのです。
当時の日本人はモーグルという競技をほとんど知らない状態でしたが、上村愛子さんが出場することでモーグル自体が注目競技となります。
そして長野オリンピックの結果は7位、優勝は同じ日本人の里谷多英さんでした。
続くソルトレイクオリンピックにも出場した上村愛子さんでしたが、結果は6位。
このとき銅メダルを獲得したのは前回金メダルの里谷多英さんですが、彼女は前回オリンピック後に問題行動を起こし、成績が低迷した上、大きな怪我もしていました。
そのためメダルの期待は上村愛子さんのほうが強かったのです。
このように、上村愛子さんは日本人の女子モーグル選手としてはもっとも注目されつつも、ここ一番の勝負では同じ日本人の里谷多英さんに負け続けました。
上村愛子さんにとって里谷多英さんは、若いときから一緒に練習をしていた仲間でありお姉さん的存在であるため、彼女のメダル獲得に対して嬉しい感情もあったでしょうが、当然同じ競技選手としての悔しさもあり、複雑な感情をもっていたものと想定できます。
上村愛子さんは、オリンピックである意味実力以上の注目がされていたわけですが、このことは相当プレッシャーになったでしょうし、オリンピック以外のところでも重圧やストレスを感じていたかもしれません。
ひょっとしたら、このようなことが原因でモーグルをやめたいと思ったことすらあったかもしれません。
しかし上村愛子さんは、競技を続け日本女子モーグル界の第一人者にまで成長します。
2008年にはワールドカップの年間総合優勝
2009年には世界選手権で金メダル
と、オリンピックの金メダルにも匹敵するような成績を残し、当然オリンピックにも出場を続け、
1998年長野オリンピック:7位
2002年ソルトレイクオリンピック:6位
2006年トリノオリンピック:5位
2010年バンクーバーオリンピック:4位
と1ずつ順位を上げていきました。
そして5回目となるソチオリンピック。
長野オリンピックのときに女子高生だった上村選手も34歳となり、既に選手としてのピークが過ぎていたことは否めない年齢にと差し掛かっていました。
そのため、このオリンピックが最後になるであろうことは、多くの日本人が言わずもながに感じていたことでしょう。
そんな状況で行われたソチオリンピック、予選7位でした。
続く決勝の1回目は、勝ち残り12人中9位と足切りライン付近での通過となり、正直、ほとんどの日本人はこの時点でメダルの獲得は難しいと感じたかと思います。
そして決勝2回目では、足切りラインギリギリとなる6位でなんとか通過。
このようにギリギリで最終滑走の3回目に進んだ上村愛子さんでしたが、1番手で滑った決勝3回目では見事に滑りきり、後続選手2人よりも高得点となりました。
結果、残り3人の時点で1位の位置につけ一気にメダルの期待が高まります。
残り3人は格上の上位陣となりますが、ミスがつきもののモーグルでは十分メダルの確率があります。
今まで後一歩のところで神様に見放されていた感のあった上村愛子さんに、『最後の最後で神様が微笑みメダルを獲得』そんな物語を多くの日本人が描いたことでしょう。
しかし結果は4位・・・
ソチオリンピックでも、神様は上村愛子さんに微笑まなかったのです。
頑張って頑張って、5回目にして掴んだチャンスではある意味運も味方しましたが、結局最後の最後で神様は微笑まない。
自分はこの無常さこそ、オリンピックの本質、スポーツの本質があるように思えます。
オリンピックはメダルを獲得した選手ばかりが注目されがちです。
メダルを獲得した興奮も確かにオリンピックの楽しさ、スポーツの楽しさでしょうが、実際、オリンピックに出場したほとんどの人はメダルを獲得できません。
ですので、オリンピックの本質はメダルを獲れない切なさにこそあると思うのです。
そして、それをもっとも象徴するような選手である上村愛子さんに、私はもっとも心揺さぶられるのです。
以上、日本の皆さんも、メダルを獲得した選手だけでなく、メダルを獲得できなかった選手にも少しだけ目を傾けていただきたいと思います。
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