将棋棋士の社会性について(佐藤天彦九段ノーマスク問題の解説)

頭脳系競技
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将棋棋士の佐藤天彦九段が、順位戦A級リーグという将棋界の最高レベルの対局でマスクをせずに反則負けになるという問題が発生しました。
この問題は一般人にはわかりづらい事情が多数重なっているので、少し説明したいと思います。

この件について一般層が最初に思い浮かんだであろう問題点は『マスクはもういらないのではないか?』ということと思われ、新型コロナウイルスの危険性に疑問を感じている人たちからの批判の声は現実に多数聞こえています。
しかし将棋のプロ棋士(現役)は170人弱で(別枠の女流棋士は除く)、対局になると盤を挟んで数十cmの距離で朝から晩まで一緒にいるのですから、あっという間に棋士の中でウイルス感染が広がりやすい環境にあるわけです。
そのため、(新型コロナウイルスが現在流行しているかの議論はあるものの)新型コロナウイルスに限らずインフルエンザのような飛沫感染する感染症の流行時に、マスクをつけるなどの対策をすることは決して間違いではないと思われます。

藤井聡太五冠が登場して以降、将棋棋士の対局に注目が高まり、タイトル戦でおやつが出ることを知っている人も多くなっているようですが、藤井五冠が登場する前まで将棋界の象徴的存在だった羽生善治九段は、タイトル戦でアイスクリームを頼むも対局に集中しすぎて溶かしてしまうという珍事を起こしたことがあります。
将棋や囲碁には盤上没我という盤上(ゲーム)に集中して周りの状況が入ってこないことを表す言葉があり、レベルの高い対局になればなるほどこういった境地に達しやすくなるのです。
今問題が起こった中継を見ると、佐藤天彦九段は水を飲む際にマスクを外し、そのままマスクをつけることを忘れてしまったようで、まさに盤上没我の境地に入っていたように感じます。
つまり将棋が頭脳系競技である以上、マスクをつけ忘れるような問題は起こりやすいと言えるわけです。
このことは、将棋を指さない一般人には多少理解しにくい問題かもしれません。

とは言え、新型コロナウイルスが流行して2年半以上が過ぎても今回のような問題は将棋界で起きませんでした。
そもそも普通に考えて、今回の問題は対局相手が『マスクつけてください』とか『マスクをつけ忘れてますよ』などと注意すれば何事もなく勝負は続いたと思う人が多いのではないでしょうか?
プロ棋士の対局ではルールで助言が厳格に禁止されていますが、マスクをつけるつけないは将棋のルールではなく、想定外の感染症が現れて矢継ぎ早に作られた盤面外の問題なので、注意喚起が助言に相当するものではないはずです。
おそらく今までの対局でも棋士がマスクをつけ忘れるような状況はあったものと想定されますが、問題にならなかったのは周りの誰かが注意していたからと考えられます。

しかし今回は、いきなり反則負けという裁定が下されました。
佐藤天彦九段の対局相手は永瀬拓矢王座だったのですが、ここに一般層にはまったくわからないであろう問題があります。
永瀬王座は勝つためなら(ルール上)何でもやることで知られ、将棋界の常識を外れたような戦術すらも採用する少々風変わりの棋士であることは将棋ファンの中では有名な話です。
今回の対局は中断するまでのAI判定で佐藤天彦九段のほうが少し有利な状況だったため、自分の不利を見越して永瀬王座がマスクの着用違反を関係者に忠告したのではないかという批判も、一部の将棋ファンの間で起こっています。
相手がマスクをしていないと、そのことが気になって集中できなくなるという問題もありますし、そもそもマスクを外した人が悪いという意見もありますが、いずれにせよ今回の問題は、永瀬王座が佐藤天彦九段に一声かければ問題にならなかったではないかと一般層の多くは感じたものと思われます。
しかし今回の問題は、永瀬王座の資質という単純な問題でもありません。

ここで問題が起きた当日の様子を、主催者の1つである毎日新聞社の記事から抜粋して少し説明しましょう。

佐藤九段は112手目を指した後にマスクを片耳に掛けて考え始め、外したまま対局を続けた。30分ほどたったところで、永瀬王座が「反則負けではないか」と関係者に指摘。会館内に立会人がいなかったため、連絡を受けた同連盟の鈴木大介常務理事が急きょ駆け付け、佐藤康光会長らと協議の結果、29日午前0時過ぎ、反則負けが決まった。

引用:佐藤天彦九段、マスク不着用で反則負け 将棋名人戦・A級順位戦 – 毎日新聞

この記事によると、永瀬王座はマスクを付け忘れている佐藤天彦九段に注意を促すことはせずに関係者へ指摘し、常務理事である鈴木大介九段が駆け付けたとのことです。
将棋に詳しくない人は当記事をみても何も思わないでしょうが、将棋ファンからは様々な疑問を感じるのです。
まず、鈴木九段は永瀬王座と近しい関係であることが広く知られており、対局者の2人に対して中立的な立場だったのか疑問を感じます。
協議には日本将棋連盟の現会長である佐藤康光九段も加わったそうなので、普通に考え最終判断は佐藤康光九段が下したものと思われます。
しかし佐藤康光九段はA級リーグ戦の参加者であり、問題の対局について自身の優越が関わる可能性もあるので、協議に参加すること事態が不適切です。
以上のように、今回の件は将棋ファンから見てもツッコミどころが多々あるわけです。

ハッキリ言って、将棋棋士(女流棋士ではなく純粋な将棋棋士)は社会性が欠落している人が多くなっています。
将棋棋士は子供の頃から将棋しかしてこなかったような人ばかりで、本来なら社会性を構築するはずの成長過程を踏んでいない人も多く、このことは藤井五冠の最終学歴が中卒であることからもよくわかると思います。
ただ、そんなことは他のスポーツだって同じかと思う人もいるかもしれません。
確かに野球だろうがサッカーだろうが、子供のころからそのスポーツを一生懸命頑張って他の部分が疎かになっていることはよく聞く話です。
しかし頭脳系競技は、普通のスポーツとは少し事情が違います。
例えば、サッカーの練習を1日10時間することは可能でしょうか?
体力を使うスポーツで1日10時間も練習することは不可能ですし、練習のやりすぎはむしろマイナスであるという考えも今では広く普及しています。
これが頭脳系競技の場合、長時間の勉強を連日することも不可能ではなく、やりすぎることのマイナス面も少なくなります。
練習する時間も朝だろうが夜だろうがほとんど関係ありません。
現在の制度上、将棋は基本的に年間4人しかプロになれないため(女性に限った女流プロは別制度)、プロ棋士になるような人は子供のころから将棋で強くなることだけを日夜考えて過ごしてきた極端な人が多くなってしまうのです。

将棋のプロになるには、奨励会というプロ棋士の養成機関におおよそ小中学生で入り、そこで数年にわたってライバルと戦い続け勝ち抜かなければなりません。
つまり1番身近な仲間たちとの戦いに勝ち抜いた人のみがプロになれるわけで、悪い言い方をすれば仲間を蹴落として残った人のみがプロになるような世界なのです。
こんな世界に子供のころからずっといたら思考回路が世間とズレるのも当然の話です。
このことも他のプロスポーツと同じと考える人がいるかもしれません。
しかしサッカーや野球ならチームスポーツなので仲間が存在しますし、テニスや陸上競技などの個人競技でも、子供のころから指導者から教えを請うたり中学高校の部活動などでは先輩後輩などの人間関係を築いたりと、社会性を身につける場面が多々あります。
しかし頭脳系競技は、初歩段階を除き指導者から入念な教えを請うようなものではなく自己で能力を高めないといけませんし、将棋も囲碁もプロを目指すほとんどの人は小中学生でプロの養成機関に入るのですから、本来するべき成長を伴っていない人が多くなるのも仕方がないと言えます。

以上のように将棋棋士は根本的に社会性の欠落した人が多いのですが、これは同じ頭脳系競技の囲碁界(日本の囲碁界)と比べても顕著のようです。
囲碁は将棋よりも競技人口が少ないにも関わらず、年間で基本的に6人がプロになれるため将棋ほどプロになることは厳しくなく、囲碁棋士の数も400人程度と将棋棋士の倍以上となっています。(囲碁の場合はプロ制度に男女の区別がないなどの違いはあるが)

2021年のレジャー白書によると、将棋の競技人口530万人に対し、囲碁の競技人口は180万人と半数以下となっている。
ちなみに2022年のレジャー白書は今日(10月31日)発売。

当然、将棋のプロ棋士全員が社会性を欠落しているとは言いませんが、社会性が欠落している人の割合が普通の会社などとは比較にならないほど高いことは間違いないと思われます。
そういった人達が運営をしているのが日本将棋連盟であるため、将棋界では度々問題が起こるのです。
藤井五冠の登場でかき消されましたが、ソフト使用による冤罪事件が起こり世間を騒がしたことも記憶に新しく、このことは将棋をしない一般人でも覚えている人が多いことでしょう。
おそらく将棋界は、これから先も一般人には理解し難いような事件を起こすはずです。
それは現在の将棋界が抱える根本的な部分であるため解決は難しく、もし解決するのなら相当抜本的なところから改革しなければならない問題となります。

その改革についての具体的な案も頭の中にはありますが、それは今回の問題とは関係ないので別の機会にでも書こうと思います。

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