近年、
・プロ棋士とAIが戦った電王戦
・三浦弘行九段に対するスマホ使用の冤罪騒動
・中学生棋士・藤井聡太六段の大活躍
・羽生善治竜王の永世七冠及び国民栄誉賞受賞
など、将棋の話題が事欠きません。
今までほとんど将棋を扱わなかった民放テレビ局も、ワイドショーなどでこぞって将棋の話題を取り扱い、特に藤井聡太六段の登場以降は、ファンでない人でもかなり将棋に触れる機会が増えてきました。
このような状況の中で将棋のプロ棋士に対する興味も強まり、プロ棋士の収入などに興味をもつ人も多いそうです。
2月17日には、藤井聡太六段が中学生として初めて棋戦優勝し賞金750万円を手にしたことが話題となりまし、羽生善治竜王が竜王戦で獲得した賞金が4,320万円と多額であったことも、一般の人には大きな驚きをもって知られたようです。
では、ここでプロ棋士の2016年度対局料ランキングを御覧ください。
1位:渡辺明棋王 :7,534万円
2位:佐藤天彦名人:7,255万円
3位:羽生善治竜王:5,070万円
4位:久保利明王将:3,019万円
5位:丸山忠久九段:2,908万円
6位:稲葉陽八段 :2,801万円
7位:菅井竜也王位:2,363万円
8位:中村太地王座:2,144万円
9位:松尾歩八段 :1,985万円
10位:佐藤康光九段:1,967万円
プロ棋士は好成績を残せば対局料1億円以上も可能ですし、1000万円を超える人は多数います。
しかし、これはあくまで対局料と賞金のみの金額で、プロ棋士にはこれ以外に参稼報償金という基本給のようなものも与えられます。
この参稼報償金は、在籍リーグや過去の実績、棋士になってからの年数など様々な要素で金額が決まるらしいのですが、この金額はコアな将棋ファンでもハッキリは分からず、新人クラス(順位戦C級2組)で年200万円、タイトルを複数持っている人などは年1000万円を超えるのではないかと噂されています。
ちなみにプロ棋士の対局数は、2016年度のもっとも多い人でも65局(佐々木勇気六段、千田翔太六段)だけですので、プロ棋士は自由に使える時間がとても多く、将棋教室や将棋にまつわる本の執筆などの副業をこなし対局料以外でも多くの収入を得ることも可能です。
では、なぜ将棋棋士はこんなにも多額の対局料・賞金を得ることができるのでしょうか?
この問題の説明する前に、比較対象としてプロ野球球団の収益を考えてみたいと思います。
プロ野球球団のメインの収入は、主催試合でのチケット収入でしょう。
単純に1000円のチケットが1万枚売れれば1000万円の売り上げになりわけですが、日本プロ野球はもっと多くの客数を見込めチケット代ももっと高額なわけですから、1試合だけでもかなりの額の収入を得ることになります。
その他に、テレビ放映権、グッズ販売、球場で売られる食品、ファンクラブ会員費、球場の看板広告、球団が主催するイベントなどで収入を得ることができます。
そして何より、親会社から広告費としてかなりの額のお金が球団に流れているそうです。
将棋のプロ棋士をまとめる日本将棋連盟は、プロ棋士の育成機関である奨励会、将棋教室である研修会及び子供スクールなどを運営しており、これに掛かる入会金や月謝を収入として得ることができます。
また、日本将棋連盟の本部である将棋会館では一般人が将棋を指せる道場があり、お金を払うことで将棋を指すことができるので、これも日本将棋連盟の収入になります。
そして将棋界にもプロ野球と同じように、プロ棋士や将棋関連のグッズや日本将棋連盟が主催する各種イベントがあり、こちらも当然収入となります。
その他に、月額500円(税別)で対局の経過を報告する、日本将棋連盟モバイルというものも運営しています。
将棋界の特殊な収入源では『免状』というものがあり、これはアマチュア棋士の段位を証明する賞状のようなもので、和紙に筆を使って直筆で文字が書かれ更に竜王と名人の署名が入ったものを、棋力の証明とお金を払うことで得ることができます。
この免状の金額が、
初段:32,400円
二段:43,200円
三段:54,000円
四段:75,600円
五段:108,000円
六段:270,000円
とかなり高額で、日本将棋連盟の大きな収入となっています。
以上のように日本将棋連盟には様々な収入源があるのですが、プロ野球などのプロスポーツと決定的に違うのは観客からのチケット代収入がないということで、将棋界はファンからの直接収入がとても少ないのです。
そして前記した対局料や賞金と、ここで挙げた日本将棋連盟の収入は一切関係がありません。
プロ棋士に対する対局料や賞金は全て棋戦を主催する主催者が払っており、つまりプロ棋士に与えられる対局料や賞金は全てスポンサー料となっているのです。
では、ここで現在行われている将棋の全棋戦と主催者を御覧ください。
【棋戦名:主催者】
竜王戦:読売新聞
名人戦:朝日新聞/毎日新聞
叡王戦:ドワンゴ
王位戦:新聞三社連合
王座戦:日本経済新聞
棋王戦:共同通信社
王将戦:スポーツニッポン/毎日新聞
棋聖戦:産経新聞
朝日杯将棋オープン戦:朝日新聞
銀河戦:囲碁・将棋チャンネル
NHK杯:NHK
将棋日本シリーズ:11の地方新聞社/JT
新人王戦:しんぶん赤旗
上州YAMADAチャレンジ杯:ヤマダ電機
加古川青流戦:加古川市
※太字はタイトル制で行われるタイトル戦、細字は単純に優勝者を決める一般棋戦
以上の棋戦を見るとわかるでしょうが、将棋の棋戦はほとんどが新聞を中心としたマスメディアが主催しています。
マスメディア以外が主催の叡王戦や上州YAMADAチャレンジ杯などは近年できたばかりで、基本的にプロ棋士への対局料や賞金は、各新聞社が長きに渡って捻出してきたのが実態です。
政治思想的に激しく対立している朝日新聞と産経新聞も、こと将棋に関しては対立などせずに一緒に応援しています。
藤井聡太六段が朝日杯将棋オープン戦で優勝したときは、主催者である朝日新聞以外の新聞社も号外を出したほどです。
棋戦を主催する新聞社に与えられる特典は将棋の駒がどう動いたかを示す『棋譜』を独占的に紙面に載せることなので、昔は新聞の紙面に載るまで棋譜はおろか対局結果もわからなかったので、新聞社が棋戦を主催する意味は大きかったものでした。
しかし現在の情報社会では対局結果や棋譜は新聞より早くネットで見ることが可能です。
将棋界の2大タイトルである竜王戦と名人戦は億単位の契約金ですが、正直、現在に於いて新聞に将棋の記事があるかないかで新聞の売上が億単位も増えることはありません。
にもかかわらず、新聞社はなぜ未だに棋戦を主催し続けるのでしょうか?
それは、新聞社としての将棋と囲碁の棋戦を主催し紙面に載せることは一種のステータスだからです。
近年に棋戦の主催を初めたドワンゴ(ニコニコ動画)やヤマダ電機も、このステータスの部分がなければ棋戦を主催しなかったと思います。
だったら同じ頭脳系競技のオセロやチェスでもいいのではないでしょうか?
しかしオセロ(リバーシ―)やチェスに多額のお金を出す団体は、現在日本にはいません。
その理由は、オセロやチェスは西洋のもので将棋と囲碁が日本文化だからです。
将棋と囲碁は、江戸時代に徳川家康に認められ家元制度ができて以来、今日までプロ制度が続いています。
特に将棋は日本独自のものなので日本文化の側面が強く(囲碁は東アジア全体で行われている)、そのため対局は基本的に畳の上で座って行い、タイトル戦では和服を着るのが慣例となっています。
プロ棋士は食べていける(十分な収入を得られる)のは、勝負(競技)の部分より文化的側面のほうが遥かに大きいのです。
近年、体の負担を考えて椅子に座っての対局が議論になることもありますが、そんなことをしたら将棋界(正確にはプロ棋士の世界)は崩壊しかねないと私は思っています。
正直、将棋から文化面という部分を除いてしまえば、新聞社が多額のお金を払う根拠が失われてしまうでしょう。
このようなことは、プロ棋士もよく考える必要があるかと思います。
最近、プロ棋士がテレビ番組に呼ばれる機会も多くなっていますが、その際に過度にふざけたりすることは将棋というステータスを傷つけることにも繋がりかねず、結局は自分の首を絞めることになってしまうかもしれません。
また、将棋を海外へ普及しようとする活動は決して無駄ではないですが、将棋が日本文化であるという側面を考えると、その努力は国内で行ったほうが遥かに有意義かと思われます。
いくら海外で将棋が認識されても、海外の企業がプロ棋士の棋戦を主催することはないでしょう。
将棋のプロ棋士は、将棋を極める者であると同時に、日本文化を守る者でもあります。
最近のプロ棋士には、このことをもう少し認識してほしいと思います。
以上、プロ棋士の収入面について深く考えてみました。
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