大谷とジャッジのMVP争いに感じる科学的な矛盾

社会科学
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現在、アメリカのプロ野球『メジャーリーグ』でMVP争い(アメリカン・リーグのMVP争い)が、日米の野球ファンの間で議論になっている。
議論対象の1人は、投手と打者の二刀流で活躍する日本人の大谷翔平選手(以下、大谷)。もう1人は、1961年に樹立された61本塁打というアメリカン・リーグの記録を61年振りに更新しようとしているアーロン・ジャッジ選手(以下、ジャッジ)だ。
※バリー・ボンズらが記録した61本を超える本塁打は、ステロイドの影響として現在はほとんど無視されている。

このMVP争いだが、現状ではジャッジのほうが有利と見られているようだ。では、9月11日現在の大谷とジャッジの打撃成績を見てみよう。

【大谷翔平】
打率:.265(リーグ32位)
打点:86点(リーグ5位)
本塁打:33本(リーグ3位)
盗塁:11(リーグ26位T)
OPS:0.884(リーグ4位)

【アーロン・ジャッジ】
打率:.307(リーグ4位)
打点:120点(リーグ1位)
本塁打:55本(リーグ1位)
盗塁:16(リーグ11位T)
OPS:1.095(リーグ1位)

OPSとは出塁率と長打率(打数に対する塁打数)を足した数字で、現在のプロ野球において最もわかりやすい打者の指数として扱われている。

以上のように、打撃成績はジャッジが圧倒している。
しかし大谷は、チームの先発投手としてローテーションを守り続けており、投手の活躍も加味しなければならない。

【大谷翔平の投手成績】
勝利数:12勝(リーグ7位T)
防御率:2.55(リーグ5位)
奪三振:188(リーグ4位)

大谷の打撃成績は打点、本塁打、OPSでリーグ5位以内に入っていたが、投手成績でも防御率と奪三振でリーグ5位以内に入っており、投打ともにメジャーリーグ最高レベルの選手であることがわかる。

今シーズンの大谷は、打率や防御率などの成績が残る規定打席と規定投球回数のクリアを目指しているようだが、こんなことを達成した選手は野球のルールが定まった1900年以降のメジャーリーグで誰もいない。大谷は、ジャッジが目指す61年前の本塁打記録どころかメジャーリーグにおける前人未到の記録に挑戦しているわけだ。
61本塁打という記録はいずれ越されると考えられていただろうが、大谷のような二刀流選手として投打ともにリーグのTOP5に入るような選手が現れることは、野球ファンの99%以上が想定していなかったことだろう。
にもかかわらず、ジャッジのほうがMVP争いにおいて有利な状態と考えられていることに違和感を覚える人も多いのではないだろうか?

ジャッジがMVP争いで有利とされる最大の理由は、チームの成績にある。
ジャッジが所属するニューヨーク・ヤンキースは、現在アメリカン・リーグ東地区の1位となっており、各地区の優勝チームとワイルドカードのチームが争うディビジョンシリーズ、更にはその上のリーグチャンピオンシップ、そしてナショナルリーグを勝ち抜いたチームと戦うメジャーリーグの最終決戦であるワールドシリーズ目指して戦っている最中だ。一方、大谷の所属するロサンゼルス・エンゼルスは現在アメリカン・リーグ西地区の4位でディビジョンシリーズへの進出の望みはほぼ断たれている。
アメリカの野球界、あるいは世界のプロスポーツ界には、『MVPは優勝争いをするチームから選ぶべき』という考えがあるが、私は、この意見に科学的な矛盾を感じてならないのだ。

野球のチーム状況が以下のようになっていたとしよう。

チーム 投手力 打撃力
チームA 10 10
チームB 5 5
チームC 1 1

この3チームで総当たりのリーグ戦をした場合、チームAの打者は投手力5と1のチームと戦うことになる。一方、チームCの打者は投手力10と投手力5のチームと戦うことになる。チームAに所属する打者とチームCに所属する打者のどちらが好成績を残しやすいかを考えた場合、当然、チームAに所属する打者のほうが好成績を残しやすい。

つまり、ジャッジのような優勝争いをしている強いチームに所属しているほうが良い打撃成績を残しやすいのだ。

同じ打撃成績だったら、弱いチームに所属している選手の成績のほうが価値があるにもかかわらず、MVPを『優勝争いをしているチームから選ぶべき』と考えることは矛盾していないだろうか?

ジャッジの打撃成績は大谷と同じではないが、大谷の場合は上記した通り投手としても大活躍している。投手も弱いチームのほうが良い成績は残しずらいわけだから、大谷のように弱いチームに所属しながら打者としても投手としてもトップレベルの成績を残していることは、とてつもなく価値が高いのだ。
もちろん野球で1番大事なのはチームの勝利である。その点を踏まえれば、『MVPは優勝争いをするチームから選ぶべき』という理論も理解出来るが、弱いチームで好成績を残す難しさについても、もう少し考慮されていいのではないだろうか?

近年、メジャーリーグではWARという『そのポジションの代替可能選手に比べてどれだけ勝利数を上積みしたか』を示す指数が使われている。このWARは投手と野手の活躍を比較でき、また数値に表れにくい守備の成績も加味されるため、MVP争いにおいても重要な指数となっているようだ。
9月11日現在におけるWARの数値は、ジャッジが8.7、大谷が投打合わせて7.9とジャッジのほうが高い。しかし、このWARは算出する媒体によっても違い、大まかな目安でしかないとされている。打率や防御率のように誰が計算しても同じ数値が出てくるわけではなく、各成績に対して制作者の個人的な主観が入っているとの指摘もあり、むしろ差が小さい場合は同レベルの活躍をしたと考えるべき指数なのだ。

大谷とジャッジのどちらがMVPを獲るべきかの判断は出来ないが、MVP争いについてジャッジがかなり有利な状況にあるという現在の論調には違和感を感じざるを得ない。これは決して日本人びいきという理由ではなく、科学的な事実を踏まえての意見である。
アメリカ人は日本人と比べ計算が極端に苦手だと聞くが、弱いチームで活躍する難しさを理解出来ないのだろうか?それとも61という数字に何かこだわりがあるのだろうか?
いずれにせよ、同じ日本人として大谷には、MVP獲得を目指して残りの試合を頑張ってもらいたい。

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