前回は日本の捕鯨全般についての記事を書きましたが、今回はアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を獲得した『ザ・コーヴ』に限定した記事を書きたいと思います。
まず最初に書かなければいけない問題として、動物学的にクジラとイルカの明確な分類はありません。
しかし一般的には、クジラ類の中のマイルカ科からシャチを除いたものがイルカとして認識されており、当記事ではクジラとイルカを分けて考えていきます。
『ザ・コーヴ』は、和歌山県の太地町で行われているイルカを入江に追い込んで捕える漁(イルカの追い込み漁)の様子を追ったドキュメンタリー映画です。
この映画を見た多くの外国人は、『日本人がイルカを食べるなんて知らなかった』、『日本人はなんて残酷な漁をするんだ』などという感想を持ったことでしょう。
そして、ほぼ全ての日本人も外国人と同じような感想を持ったと思われます。
なぜなら日本人は、イルカの追い込み漁のことなど知らなかったし、イルカを食べる人も現在はほぼ100%いないのです。
ここで、日本におけるイルカの追い込み漁の歴史について簡単に説明します。
前回の記事でも書いたように、日本人は動物性タンパク源を海洋生物に求めていたため、イルカも食材として扱われていた歴史があり、イルカの追い込み漁も江戸時代以前から始まっていたようです。
しかし、明治以降は様々な理由からイルカの追い込み漁は下火になります。
その後、戦後の食糧難からイルカの追い込み漁は復活し最盛期を迎えるのですが、食料供給が安定した以降は再び下火となり、21世紀以降は和歌山県の太地町だけで行われている極めて地域性の高い漁となってます。
※イルカ漁には追い込み漁以外に突きん棒漁もあるが、こちらも現在は極めて小規模となっている。
太地町は山と海に挟まれた狭い地域で農業などには適さず、町の産業を海に求めるしかありません。
その結果、極端に鯨肉(クジラ、イルカを含む)に頼った生活をするという日本でも特異な歴史を歩んできました。
しかし、ほとんどの日本人は『ザ・コーヴ』が公開されるまで太地町の存在自体を知りませんでした。
こう言ってはなんですが、太地町は日本の端にある田舎町で、地図で見てもかなり孤立した場所であることがわかります。
このような地域性の高い1つの漁で日本全体を批判するのだとしたら、それはアラスカの一部の原住民が行う漁でアメリカ全体を批判するに等しい話です。
もしマグロやうなぎを食べることで、日本人全体が批判されるのなら致しかたない話です。
このような食材は、日本の食文化に大きく組みしているのですから、日本人全体の問題として捉えられても仕方ありません。
しかし戦後の食糧難の時代を除き、イルカの追い込み漁及びイルカ肉が日本全体の食文化に大きく関わっている事実はなく(一部の地域にはあっただろうが)、このことを理由に日本全体を批判するのは筋違いと言えるでしょう。
イルカに対しては、ほとんどの日本人も世界中の人たちと同じような感覚で見ており、決して食べる対象だとは思っていません。
この問題に対して日本を擁護する西洋人もいますが、そのような人も大抵は『西洋人が牛を食べるのだから日本人がイルカを食べても問題ないだろう』などと主張しています。
しかし、現在の日本人のほぼ100%の人はイルカなんて食べていないのです。
現在、日本でイルカ漁を行っているのは『ザ・コーヴ』で話題になった和歌山県の太地町と、突きん棒漁を行う岩手県の山田町・大槌町が中心で、この2箇所だけで日本のイルカ捕獲量の95%程度を占めます。
このように現在の日本においてイルカ漁及びイルカ食は地域特性の高いものとなっており、イルカ肉が全国的に流通しているようなこともなく、ほとんどが地産地消されています。
つまり『ザ・コーヴ』は、日本を擁護する人たちにすら間違った認識を与える、誤解しか生まない映画と言えるのです。
そもそも、太地町はなぜイルカの追い込み漁を続けるのかについても、もう少し深く探っていきたいと思います。
実は、太地町は日本の捕鯨発祥の地とも呼ばれる場所で、歴史的にも捕鯨がとても盛ん場所でした。
しかし捕鯨に対しいろいろな規制が掛かり、特に大型なクジラの捕獲がとても難しくなったため、その代替としてイルカ(小型のクジラ)漁を始めたという側面があります。
かつてのような捕鯨ができていれば、いくら捕鯨の町と言われる太地町であっても、ほとんどの地域で廃止されたイルカの追い込み漁を現在まで続ける必要はなかったと思われるのです。
捕鯨そのものを真っ向から批判するのなら日本政府や日本人も正々堂々と受けて立つでしょうが、日本人すら知らないイルカ漁を通して日本の捕鯨を批判するのは、卑怯なやり方と言わざるを得ません。
また撮影方法などにも相当問題があり、一般市民に対する許可のない撮影、盗撮、立入禁止場所への不法な侵入など、『ザ・コーヴ』では様々な違法行為を伴った撮影を行っています。
そもそも本当に日本のイルカ漁を問題だと思っているのなら、当時、日本のイルカ漁の大半を占めていた岩手県の突きん棒漁を題材にするべきなのに、それをせずに太地町を選んだのは、追い込み漁のほうがより残酷に見え撮影がしやすかったという理由でしょう。
つまりこの映画は、本気で日本のイルカ漁の問題を世界に訴えたいわけではなく、日本を貶める印象操作を目的に作られていることが明白と言えるのです。
私は、『ザ・コーヴ』の制作に関わった
監督のルイ・シホヨス
プロデューサーのフィッシャー・スティーヴンス
出資者のジム・クラーク
これら全ての人に極めて強く抗議したいと思います。
有名なものとしては、
『ビハインド・ザ・コーヴ〜捕鯨問題の謎に迫る〜』(英題:Behind “THE COVE” 〜The Quiet Japanese Speak Out!〜)
『おクジラさま ふたつの正義の物語』(英題:A Whale of a Tale)
の2つです。
英語版もあるようなので、外国人も含め興味を持った方は是非ご覧ください。(『おクジラさま ふたつの正義の物語』の英語版は近日アメリカで公開予定)
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コメント
静岡県では普通のスーパーにイルカが魚の切り身で売ってますよ。県外者だったので、料理の仕方が分からず食べませんでしたが。
ほぼ100%食べないという文言だけが目立ってしまい、イルカ漁反対派にそこだけ攻撃される可能性あると思います。
イルカ・クジラ反対論者は感情でものを言ってくるので、とにかく反論できない理詰めの理論をお経のように唱えるのが一番だと謂います。その上で過度になぜ日本だけバッシングされるのかの考察を述べるのが一番だと思ってます。
私なら、知能の高いイルカ云々と言われたら、知能が低いなら食べていいなら、知的障害者も食べていいのか?これは炎上するので言わないですが。日本バッシングは日本人がおとなしくやり返さない、さらにスポンサーもついてお金になる、世界経済での邪魔者排除あたりでしょう。