皆さん、突然ですがオオカミとコヨーテの違いが分かりますか?
動物に詳しい人なら、
オオカミは、イヌ科最大の動物で比較的寒冷地の森林などに棲んでいる
コヨーテは、オオカミに比べると小型で砂漠などの熱帯地域にも進出している
ぐらいの認識はあるかもしれません。
では、実際のオオカミとコヨーテの画像を見てみたいと思います。
オオカミ(学名:Canis lupus)
コヨーテ(学名:Canis latrans)
オオカミとコヨーテは共にイヌ科イヌ属に属する動物ですが、近縁種の動物は生息地が寒いほど大きくなりやすい傾向があります。
例えば、同じ北アメリカ大陸に生息するオオカミとコヨーテでは、寒冷な地に棲むことが多いオオカミの方が、比較的温暖な地に棲むことが多いコヨーテより大きくなります。(オオカミの体重は40kg程度、コヨーテの体重は15kg程度)
また、毛の量や長さなども生息域に影響し、寒冷な地に棲むオオカミは毛量が多く、温暖な地に棲むコヨーテは毛量が少なくなるなどの外見的な違いが現れます。
オオカミの生息域
オオカミの生息域は北半球全域に広く渡っていて、かつては日本やヨーロッパ全域、北アメリカの南部にも生息していました。
※緑が生息域、赤が絶滅地域
コヨーテの生息域
image credit:Cypron-Range Canis latrans by Maplab
コヨーテの生息域は北アメリカ大陸のみですが、北アメリカ大陸ではオオカミ以上に広く生息しています。
↓オオカミとコヨーテの交雑を伝える海外のサイト
実は、オオカミとコヨーテの間に産まれる子供は身体に問題もなく繁殖能力も伴うのですが、ここで1つの疑問が生まれます。
それは、生まれてくる子供が健康で繁殖能力があるのなら、同じ動物なのではないかという疑問です。
ヒョウ属のトラとライオンは、人工的な繁殖でライガーやタイゴンと呼ばれるの子供が生まれますが、その子供には繁殖能力がありません。
ウマとロバの交雑種であるラバも同じく繁殖能力はありません。
しかし、オオカミとコヨーテの交雑種は繁殖能力があり、しかも人工的ではなく自然下でも繁殖行動が行われているのです。
20世紀のダーウィンとも称された進化生物学の権威『エルンスト・マイヤー』氏は、種の基準について以下の通り説明しています。
同地域に分布する生物集団が自然条件下で交配し、子孫を残すならば、それは同一の種とみなす。
この定義に従えば、オオカミとコヨーテは自然に交配し子孫を残し生活域も重なっているのですから、同種ということになります。
もう少し踏み込んで考えると、コヨーテはオオカミの亜種ということになるかと思います。
アメリカアカオオカミ(学名:Canis rufus)
アメリカアカオオカミは、オオカミとコヨーテの交雑種であるとの話もあり、そもそも独立種でない可能性も考えられます。
キンイロジャッカル(学名:Canis aureus)
photo credit:Golden Jackal by Koshy Koshy
キンイロジャッカルは、ジャッカルという名前ですがオオカミに近い動物であることが分かっています。
また近年、アフリカに生息するキンイロジャッカルとユーラシア大陸に生息するキンイロジャッカルが別種であると発表され話題になりました。
いずれにせよ、キンイロジャッカルはオオカミと自然交配するすることが分かっています。
アビシニアジャッカル(学名:Canis simensis)
photo credit:Ethiopian Wolf by Stuart Orford
アビシニアンジャッカルは、近年、野犬との交雑が進み絶滅の危機に瀕しているとのことです。(野犬=イヌは、オオカミの亜種である)
アメリカアカオオカミ(学名:Canis rufus)
キンイロジャッカル(学名:Canis aureus)
image credit:World goldschakal by Jonathan Hornung
アビシニアジャッカル(学名:Canis simensis)
image credit:Mapa distribución lobo rojo (canis rufus) by Fobos92
これらの生息域と、先に紹介したオオカミとコヨーテの生息域を重ねると、オオカミ、コヨーテ、アメリカアカオオカミ、キンイロジャッカル、アビシニアンジャッカルの生活地域は繋がっており、
同地域に分布する生物集団が自然条件下で交配し、子孫を残すならば、それは同一の種とみなす。
という定義に従えば、同種(亜種)ということになります。(ベーリング海峡が海で隔たれたのはわずか1万年前のことなので、まだ遺伝子的な乖離は起こらない)
少なくとも、同じ北アメリカ大陸に生息し、頻繁に自然交配をしているオオカミ、コヨーテ、アメリカアカオオカミは、完全に同種とみて問題ないでしょう。
そうであるなら、コヨーテ、アメリカアカオオカミ、キンイロジャッカルの2種、アビシニアンジャッカルは、オオカミ(学名:Canis lupus)の亜種とし、
コヨーテ → アメリカオオカミ
Canis latrans → Canis lupus latrans
アメリカアカオオカミ
Canis rufus → Canis lupus rufus
キンイロジャッカル → アジアキンイロオオカミ、アフリカキンイロオオカミ
Canis aureus → Canis lupus aureus
アビシニアジャッカル → エチオピアオオカミ
Canis simensis → Canis lupus simensis
などと名前や学名を変えるべきなのかもしれません。
【2019年6月29日追記】
別記事も含めオオカミに関するコメントが増えてきたので少し追記します。
生物は、人間の手にかかると自然化では考えられないような速度、または異常性を持って進化することが知られています。
例えば、金魚は色も形もとても多様で、このことは日本人の多くが理解できるでしょう。
人間との関係が深い犬も、犬種という名のもとに様々な形や大きさに姿を変えています。
犬種の中でもっとも小さい(体重が軽い)のはチワワで、体重はおよそ2kgから3kg、もっとも大きい(体重が重い)のはセントバーナードやマスティフで、体重は60kgから80kgとなります。
この差はおよそ30倍です。
一方、同じように人間との関係が深い猫(イエネコ)は、小さい猫種2kg程度、大きい猫種で6kgから8kg程度となっており、体重差は3倍から4倍程度に収まっています。
馬は最小種が200kg程度、最大種が1000kg程度で5倍程度の体重差です。
このように、猫や馬に比べると犬の大きさの違いは異常なレベルであることがわかります。
これが何を意味しているかというと、
犬属は大きさの違いが先天的に起こりやすい動物だということです。
つまり、記事にあるオオカミ、コヨーテ、アメリカアカオオカミ、キンイロジャッカル、アビシニアンジャッカル、またはオオカミの中でも非常に小型とされる日本のオオカミ(ニホンオオカミ)は、イヌ属特有の大きさの違いが発生しただけではないかと考えられるわけです。
人間的価値観では、オオカミ(ハイイロオオカミ)とコヨーテやニホンオオカミは、大きさの差から別種であると考えがちですが、そもそもオオカミという種が大きさに幅のある動物だというだけのことなのではないでしょうか?
以下、オオカミとコヨーテの大きさの違いが分かる動画(黒=オオカミ、茶色=コヨーテ)
コメント
交雑種が出てくることはあっても、「分布が完全に重なっているにもかかわらず殆どは交雑しない」ことを考えれば、繁殖隔離が行われていると考えても良いので、別種であると考えた方がよいのでは?
その交雑が最近頻繁に起こっていることを考えて、著者はオオカミとコヨーテが同一種であると主張しているのではないでしょうか?
現在、日本各地でニホンザルとタイワンザルの交雑が起きていますが、著者はそれも同種なので問題なしとお考えなのでしょうか?
ニホンザルは本州最北部から屋久島まで日本に広く分布しているサルですが、日本列島と台湾島が分離したのは1500万年前と言われており、南西諸島(沖縄周辺の島々)と台湾が分離したのは200万年前と言われています。
氷河期には樺太島を経由して日本列島とユーラシア大陸が繋がっている時期もありましたが、サル類は熱帯性の動物なので、当時の台湾が大陸と陸続きだったといってタイワンザルがシベリア付近を経由して日本に入ってくることはありえません。
よってニホンザルとタイワンザルは、交雑ができても地理的分離が十分な期間なされており、別種であると考えられます。
一方、記事にあるイヌ属はユーラシア大陸、北アメリカ大陸、アフリカ大陸北部に広く分布しています。
ユーラシア大陸とアフリカ大陸は陸続きですし、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸も氷河期のかなり長い期間陸続きで、その状態は1万年前近くまで続いていました。
特にオオカミなどは寒さに強い動物なので、極寒の地であったシベリア-アラスカ間を渡っていくことも可能です。
以上のことから、オオカミ、コヨーテ、アメリカアカオオカミ、キンイロジャッカル、アビシニアジャッカルは地理的な分離はなされておらず、同種であると考えています。
管理人さまの仰ることにあまり違和感はないです。
実際は
ヒト程度の違いでしかないのでは?
最近りすとコヨーテの漫画読んでます。
かわいいですね。
先日NHKの『ダーウィンが来た!』にてチベットオオカミのことが取り上げられ、その中の仮説として、チベットオオカミは5000万年から始まるユーラシア大陸とインド大陸の衝突による大地の隆起で他のオオカミと分離したと説明されていました。
そのことが事実なら、チベットオオカミは他のオオカミと1千万年単位に及ぶ隔絶した環境で暮らしていることになります。
それでも分類学的にチベットオオカミはオオカミの亜種に留まると判断されています。
そう考えると、同じ地域に生息し交雑も頻繁に起こっているオオカミとコヨーテのほうがよっぽど同一種に思えますね。
『ダーウィンが来た!』で紹介されたチベットオオカミはヒマラヤオオカミのことかと思うのですが、このヒマラヤオオカミが他のオオカミから枝分かれしたのは80万年前あるいは50万年前とされ、現世のオオカミ(タイリクオオカミ)から最も早く分岐した亜種と考えられると共に独立種であるとの指摘もされているそうです。